- ベイトソンは生物など「精神をもつ存在」ものと、鉱物、岩石、機械など「精神を持たない存在」の違いを研究しました。
- 「精神」を持つ人は自己フィードバックによる制御をいとも簡単に行うことができることを示しました。
- しかし、フィードバック理論の原理が発見されるまで、機械に対して自己フィードバックによる制御を行うことは困難でした。
前の記事では「フィードバックの工学的な定義」について説明しました。
詳しくは以下のリンクをご覧ください。
知の巨人:グレゴリー・ベイトソン
ここからはちょっと本筋から外れて、工学的な自己フィードバックモデルがどのように発展してきたか、その歴史に触れていきます。
興味がある方は本記事をご参考になさってください。
「自己フィードバック」のモデルは比較的新しい工学的なモデルです。
フィードバックという考え方が体系づけられたことで、近代の工業の発展も大幅に進みました。
過去に、工学的なフィードバックと生物が自然にもつフィードバック機構との関連性などを研究した人がいます。
文化人類学者のグレゴリー・ベイトソン(引用:ウィキペディア)(Gregory Bateson, 1904/5/9~1980/7/4)です。
ベイトソンによる自己フィードバックの考察
以下に記載したベイトソンの文献の解説を簡単にまとめます。
- ベイトソンは生物など「精神をもつ存在」ものと、鉱物、岩石、機械など「精神を持たない存在」の違いを研究しました。
- 「精神」を持つ人は自己フィードバックによる制御をいとも簡単に行うことができることを示しました。
- しかし、フィードバック理論の原理が発見されるまで、機械に対して自己フィードバックによる制御を行うことは困難でした。
本記事で紹介するベイトソンの研究から、自己フィードバックという考え方の元祖は、生物など「精神をもつ存在」が自然に有している機能であることが理解できます。
次の記事ではフィードバックの仕組みを理解するためにとても大切な「生物のもつフィードバック」について解説します。
学術的な研究に興味のある方は以下の文献解説もご覧ください。
精神と自然
ベイトソンの書籍に記載されたフィードバックに関する記述を参考にしていきます。
文献1:G. ベイトソン、“精神と自然 改訂版 生きた世界の認識論”、新思索社、2001年
いわゆる「精神」の学習モデルや精神の論理レベルについての研究成果によって大きな役割を果たした文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンは、あるシステムにおけるマインド(精神)をどのような基準で判別するかについての論文を記述しています(文献1、IV精神過程を見分ける基準、pp.123-176)。
これはベイトソンが定義した生物など「精神をもつ存在」と、鉱物、岩石、機械など「精神を持たない存在」の違いを議論するものです。
論文中では「精神過程は再帰的(またはそれ以上に複雑な)決定の連鎖を必要とする」という項目に、過去に行われた工学的フィードバックの理論的研究の起源が記されています。
ベイトソンによれば19世紀の技術者達は蒸気機関の動作を適正に制御することが困難であり、その手法の開発に多大な努力をつぎ込んできました。
それは燃料の追加に伴って動作強度が必要以上に暴走せず、また燃料の供給減少にともなって動作強度が必要以上に減衰しすぎないように、一定の強度範囲内で蒸気機関の動作が行われるように制御を行うことが目的でした。
このとき技術者たちは現在の制御理論、フィードバック理論の基本的な原理を発見し、その後長い年月を経て第二次世界大戦の時代に理論的な数学モデルを完成させました。
これは従来、人間をはじめとするベイトソンの定義した「精神を持つ存在」が容易に行っている自律的で自動的な学習および行動の制御を、人為的な機械にその一部でもモデル化させることが、当時は困難であったことを物語っています。
「精神」を持つ人が自己フィードバックによる制御をいとも簡単に行う例として、A氏が下り坂で自転車に乗っている場合を考えます。
このときA氏は自分の自転車の速度が想定よりも速くなると、ブレーキをかけることで速度を一定範囲に制限することが自然にできます。
またA氏が平地で自転車のペダルをこがずにそれまでの惰性で進んでいるとき、もしも自転車が止まりそうになればまたペダルをこいで前進させることで一定範囲の速度で自転車を走らせることができます。
このように人間(A氏)にとって非常に簡単な自転車の速度制御と同等の動作制御を、蒸気機関のような機械に模倣(モデリング)させることは、19世紀には非常に難しい問題であったことがわかります。
先人達の多くの試行錯誤の結果、工学的自己フィードバックシステムが数学的なモデルとして確立され、現在では一般的な工業製品の制御機構や工場での設備の動作制御などで利用されています。
現在の機械や電気装置が自動的に学習しながらその機能を発揮しているのは、その自己フィードバックによる自動学習モデルが非常にシンプルで、しかもベイトソンの言う「精神」の再帰的な自己学習機構の重要ポイントを適切にモデリングしていることがその要因にあげられます。
すなわち、工学的自己フィードバックモデルは、機械が自動的に望ましい動作に近づくような学習ができるように、人間が自然に行う自己学習する経過(プロセス)をモデリングしたものです。そしてこのモデルは現代も工学的に応用されている、非常に効果的で実用的なモデルです。
まとめ
この記事をまとめます。
- ベイトソンは生物など「精神をもつ存在」ものと、鉱物、岩石、機械など「精神を持たない存在」の違いを研究しました。
- 「精神」を持つ人は自己フィードバックによる制御をいとも簡単に行うことができることを示しました。
- しかし、フィードバック理論の原理が発見されるまで、機械に対して自己フィードバックによる制御を行うことは困難でした。
参考文献
ベイトソンの著作には現代科学、心理学の基礎となるような様々な考え方が説明されています。
興味のある方は、ベイトソンの他の著作や彼の研究をわかりやすく説明した本を一読ください。
知的好奇心がムクムクわいてきますよ。