「自己フィードバックの目的」は、「自分のための目的」を設定する。
「自己フィードバック」の手順:
(1)ニューロロジカルレベルによる問題の分析をする。
(2)望ましい状態を聞き取る。
(3)目標達成のための助言をフィードバックする。
フィードバックの事例は学びの宝庫です。
自己フィードバックモデル
前の記事では自己フィードバックのモデルを説明しました。
こんな図でしたね。
GEOモデルの現状とゴールに人の形をしたニューロロジカルレベルが書いてあるモデルですね。
これから自己フィードバックモデルをベースとしたコーチングの事例をいくつか紹介していきます。
事例を見ることは、武道でいう「見取り稽古」と同じで、コーチングのスキルを高めていきますよ。
「見取り稽古」は「ほかの人の稽古や試合を見て学ぶこと」の意味です。
「見取り稽古」は知っていますよ。
言葉まで説明してくれるのはありがたいんですが、なんか微妙な感じが。。。
目的設定は誰のため?
自己フィードバックモデルを考えるとき、まずはゴール、目的を設定します。
ところで「目的」は誰のために設定するのでしょうか?
「ゴール、目的って、自分が手にいれたいものですよね」という考えは、理想的には正しいです。
しかし、人の精神構造は意外とあまのじゃくで、あまり乗り気ではない目的を設定することは多々あります。
あまり乗り気でない目的の設定について事例を紹介します。
誰のために勉強する?
たとえば高校生のA君が実力テストの勉強をする事を目的に設定したとします。
このとき、Aくんが「勉強しないとお母さんに怒られるから、しぶしぶ勉強する」と考えている場合、これは効果的な目的設定となりません。
「お母さんに怒られる」という「自分にとっての問題を避けるための目的」ですので、「自分が手に入れたい目的」にはなっていません。
自己フィードバックモデルを効果的に活用するためには、クライアントが言っている「目的」が「誰のための目的」になっているかを聞き取ります。
また、「勉強してテストの点数が上がれば、お母さんが喜ぶ」という場合も、あまり効果的ではありません。
「怒られることを避ける」よりは肯定的な目的ではありますが、「お母さんが喜ぶ」はお母さんにとっての一つのゴール(目的)を他人のA君が設定しているので、「自分のための目的」にはなっていません。
この場合、「お母さんが喜ぶと、私も嬉しい」というように、最終的に他人ではなく自分が心地よい感覚を得られるように目的を設定する必要があります。
他人の反応は自分でコントロールできないため自分の思うとおりにならないこともあります。
「お母さんが喜ぶ」ことを目的に設定した場合、お母さんの反応をA君はコントロールできないので、たとえ良い成績を取ったとしても「お母さんが喜ぶ」かどうかはわかりません。
自分のための目的
他人のために頑張るというのは尊いことであることはいうまでもありません。
でも、自分のために頑張れる目的を設定した方が、自然に目的に向かって行動を進めることができます。
自分自身が得られるもの、心地よい反応などであれば、適切な行動をとることで望ましい自分であるゴールに着実に近づけるからです。
例えば、「テスト勉強を頑張れば志望校への合格へ一歩近づく」、「志望校で前から興味があった研究をやりたい」、「大学で勉強して将来は○○の仕事をやりたい」のような未来の「なりたい自分」をイメージした目的設定は自己フィードバックを行う際のモチベーションを上げるのに効果的です。
本当に「なりたい自分」、「手に入れたい目的」を設定できると、人は積極的にゴールへ向けて行動をしていくようになります。
これが自己フィードバックの一つのポイントです。
「自分のための目的」を設定すると、人は積極的に目的へ向けて行動をしていく。
【事例】英語が話せない人へのコーチング
クライアントはTさん(会社員)です。
Tさんは有名企業に勤めている会社員です。日頃、ビジネスで英語を使うことが多いです。
Tさんの抱えている問題は、英語でメールや文書を書くことは得意なのですが、外国の方と打ち合わせなどで話すときに緊張して上手く話せないことです。
英語でプレゼンするときには、心臓がドキドキして、頭が真っ白になってしまうんです。
事前に話す内容をメモにまとめていても、「忘れたらどうしよう」、「間違えたらどうしよう」、「発音が悪くて伝わらなかったらどうしよう」と自分が失敗することばかり頭に浮かんで、自分の発表が終わると汗だくで疲れ切ってしまいます。
英語ができないので一生懸命勉強しているんですが、なかなか上達しなくてつらいです。
Tさんは英語の勉強を大学時代から熱心にやっており、英語のテストでは高得点を取得していて、会社でも英語力を期待されています。
Tさんは英語の勉強を大学時代から熱心にやっており、英語のテストでは高得点を取得していて、会社でも英語力を期待されています。
「英語ができない」といっていますが、英語を書くこと(Writing)、聴き取ること(Listening)には十分な能力を有しており、話すこと(Speaking)に苦手意識を持っています。
実際のところ、Tさんは英語での発表では事前に準備をするので失敗したことはなく、会社にとっては何も問題がないのですが、Tさんは発表するたびに自己嫌悪に陥ることを問題としています。
ニューロロジカルレベルによる問題の分析
私はTさんとコーチングセッションを行いました。
セッションではニューロロジカルレベルでこの問題に関係するTさんの意識の階層構造を分析しました。
ここで一つポイントになることは、Tさんが「英語ができない」と口にしていることです。
- (1) 環境:英語での発表がある会社に所属している。
- (2) 行動:仕事で英語での発表をする。日々、英語の勉強をしている。
- (3) 能力:英語での文書記述能力は高い。英語のテストの点数は高い。
- (4) 信念・価値観:私は英語が苦手だ。間違えたら恥ずかしい。
- (5) 自己認識:私は英語ができない人だ。
Tさんの場合、(1)環境、(2)行動、(3)能力に関しては特に問題がないように聴き取りました。
しかし、(4)信念・価値観のレベルで、「私は英語が苦手だ」、「英語の発音が下手だ」、「間違えたら恥ずかしい」という自己否定的な信念をもっていることを聴き取りました。
また(5)自己認識レベルで「私は英語ができない人だ、だから勉強しなければならない」という否定的なレッテルを自分に貼っている事がわかりました。
Tさんは自分のことを「英語ができない人」と自己認識しているので、「失敗」を恐れて萎縮していることが問題であり、
(5)自己認識、(4)信念・価値観の問題が、(3)能力、(2)行動、(1)環境にも悪影響を与え、英語を話すことの妨げになっていました。
望ましい状態の聞き取り
コーチングセッションでは、Tさんがどうなりたいのか、望ましい姿を聞いて、問題を解消するアプローチを採りました。
まず、(5)自己認識レベルでの望ましい姿として、「私は英語ができない人」から、「私は英語で必要なコミュニケーションをとる人」として意識を変化させました。
そして、(4)信念・価値観レベルでの望ましい姿として、否定的な信念から、「相手に英語で伝えたい」、「楽しく会話したい」という肯定的な信念へ意識を向けていきました。
このとき、(3)能力、(2)行動、(1)環境レベルはもともと問題がなかったので、適切に活用されていきます。
望ましい状態をニューロロジカルレベルで示すと以下のようになります。
- (1) 環境:英語での発表がある会社に所属している。
- (2) 行動:仕事で英語での発表をする。日々、英語の勉強をしている。
- (3) 能力:英語での文書記述能力は高い。英語のテストの点数は高い。
- (4) 信念・価値観:私は相手に英語で伝えたい。英語で楽しく会話したい。
- (5) 自己認識:私は英語で必要なコミュニケーションをとる人だ。
コーチングセッションのまとめ
Tさんに対するセッションでは、「英語が苦手」という問題に意識を向けた状態から、問題の裏側にある「英語でコミュニケーションをとりたい」という望ましい状態に意識を向けることで、それまで問題だったことが問題に感じられなくなった事例です。
それによって、それまで努力して身につけてきた英語の能力を活かせるようになり、失敗を恐れることなく、目的に向かって行動できるようになりました。
コーチングセッションの後、Tさんは、自分が英語ができないという自己否定的な考えを横に置いて、相手の方と英語でコミュニケーションをしたいという肯定的な目的を持つことで、失敗を恐れずに英語で発表ができるようになったとのことです。
- 否定的な自己認識、信念・価値観が変わると、能力、行動、環境にも良い影響を与える。
- 問題に意識を向けているクライアントには、問題の裏側にある望ましい状態に意識を変えることで意欲的に目的達成の行動をとることができる。
英語が使いこなせるようになってよかったですね♪
【事例】サッカー少年へのコーチング
次のクライアントは中学校のサッカー部に所属しているSくんです。
Sくんはサッカーが大好きで、将来プロのサッカー選手になりたいと思っています。
サッカー部のキャプテンとしてチームをまとめていますが、最近、いまのままの練習で将来プロ選手になれるのかどうか不安になってきて、ご両親からフィードバック・ラボへ相談がありました。
いまのチームの中ではドリブルもシュートも僕が一番上手だと思うけど、強豪校と練習試合をすると、僕よりも上手な選手が何人もいます。
将来サッカー選手になるために、もっと上手になるために、どうしたらいいか悩んでいます。
私は、Sくんが将来のサッカー選手という夢に向かって頑張れるように、フィードバック・ラボとしてサポートしたいと考えました。
フィードバック、コーチングはビジネスの現場では大いに役に立ちますが、私たちは子供や学生の教育、成長に向けても大きな効果があると考えており、実際によい結果を出してきています。
ニューロロジカルレベルによる問題の分析
私はSくんとコーチングセッションをもって、ニューロロジカルレベルでSくんの意識の階層構造を聴き取りました。
- (1) 環境:中学のサッカー部に所属している。コーチは学校の先生で、サッカーの知識はそれほど高くない。
- (2) 行動:平日の放課後と土曜日午前中にサッカー部の練習している。空き時間にドリブルやシュートの自主練習をしている。
- (3) 能力:チーム内ではドリブルが上手な選手で、シュートでの得点も多い。強豪校との練習試合ではドリブルが止められ、シュートもなかなか決まらない。
- (4) 信念・価値観:私はドリブルやシュートがまあまあ上手だけれど、強豪校の選手ほどではない。
- (5) 自己認識:私は将来プロになりたいサッカー選手だ。
この場合、Sくんの状態をどのように分析したら良いでしょうか。
(5)自己認識レベルにおいて、将来「プロサッカー選手になりたいサッカー選手」であることは、中学生のサッカー選手としてはとても大きな目標で好感が持てます。
コーチングとしては、もう少し直近の中学、高校、あるいは大学などでどのようなサッカー選手になりたいかを具体的にしていくことで、大きな目標である「プロサッカー選手」に近づくための具体的な行動が見えてくると考えます。
(4)信念・価値観レベルでは、自己を肯定する「ドリブルやシュートがまあまあ上手だ」という言葉が出てきています。それとともに「まあまあ」、「強豪校の選手ほどではない」という自己否定的な信念が聞こえています。
ここでは「まあまあ」という自分の可能性に対する限定に対し、「いまのチームの中ではどのぐらい上手ですか?」という質問などを使い、いまのチームという一定の限定範囲内でもよいので肯定的な表現にしていき、自己の能力を承認させるアプローチをとりたいです。
そして、直近の中学、高校などの段階で、「さらにどのようになっていきたいか」、「強豪校の選手のように上手になるためにどうするか」という新たな目標を設定していきたいです。
どのような(3)能力を身につけていきたいか、そのためにはどのような(2)行動をとる必要があり、どのような(1)環境で練習をしていきたいかなどを具体的にします。
(3)能力レベルでは、強豪校との試合でドリブルやシュートを成功させるために必要な能力は何か、どのような能力を強化していったら良いかを具体化します。チームプレーのレベルを上げるために戦術を学ぶ必要があるかもしれません。
(2)行動レベルでは、ドリブルやシュートの能力を向上させるために、もっと体力が必要であれば走り込みやトレーニングが必要でしょう。テクニックが必要であれば適切な練習方法をサッカーコーチと相談するのが良いかもしれません。戦術も能力の範疇ですので、本を呼んで学んだり、プロサッカーの試合を観戦して勉強することも考えられます。
場合によっては(1)環境を変えて、別のチームに所属するという選択肢もあるかもしれません。学校のチームではなく、プロリーグの下部組織のチームに入団するという判断になるかもしれません。人には様々な可能性があります。
望ましい状態の聞き取り
コーチングの結果、Sくんの目的に向かったニューロロジカルレベルは以下のように聴き取りました。
- (1) 環境:中学のサッカー部に所属している。将来はプロチームの下部組織に入団したい。
- (2) 行動:平日の放課後と土曜日午前中にサッカー部の練習している。空き時間にドリブルやシュートの自主練習をしている。さらに能力を高めるためにトレーニングを行い、戦術を学ぶために本を読んで、プロサッカーの試合を観戦する。
- (3) 能力:チーム内ではドリブルが上手な選手で、シュートでの得点も多い。強豪校との練習試合でドリブルやシュートが決められるように練習をしていきたい。
- (4) 信念・価値観:私はいまのチームの中ではドリブルやシュートが上手だ。コーチと相談して、強豪校の選手のようになれるように実力を高めていきたい。
- (5) 自己認識:私は将来プロになりたいサッカー選手だ。
コーチングセッションのまとめ
以上のように、GEOモデルとニューロロジカルレベルを一体化させる自己フィードバックモデルを適用することで、クライアントが自らが望ましい状態をゴールとして設定して、具体的にどのようにすればそのゴールを手に入れられるかを分析して、自ら行動していくというアプローチが自然に行われるようになります。
将来、素晴らしいサッカー選手になってほしいですね♪
フィードバックの事例は学びの宝庫です
フィードバックの事例を紹介していただきありがとうございます。
所長のコーチングでの分析が細かに説明されていて納得しました。
さきほど、「事例を見ることは、武道でいう『見取り稽古』と同じで、コーチングのスキルを高める」と話しましたよね。
先人の考え方、情報収集の進め方、フィードバックの仕方を学んでいくことで、きっとすばらしいフィードバック・コーチになれると思います。
はい!これからもたくさんの事例を見せてくださいね!
ま、だんだんに自分でクライアントと関わって、フィードバックの技を身につけていってください。
まとめ
この記事をまとめます。
「自己フィードバックの目的」は、「自分のための目的」を設定する。
「自己フィードバック」の手順:
(1)ニューロロジカルレベルによる問題の分析をする。
(2)望ましい状態を聞き取る。
(3)目標達成のための助言をフィードバックする。
フィードバックの事例は学びの宝庫です。