フィードバックの達人となるためのマインドセット
・相手にフィードバックを効果的に行うためのマインドセット
相手の目標を理解し、相手の成長を促すことを目的として、肯定的な言葉を使ったフィードバックを「改善点」として伝える。
・自己フィードバックプロセスを活用するためのマインドセット
相手が本当に手に入れたい具体的な目標を設定することで、効果的に自己フィードバックプロセスを起動させる。
人間の自己フィードバックによる学習・成長機能
これまで、人間の持つ「意識的」な自己フィードバック機能の例として自転車の速度を一定に保つような行動、人間を含む生物の「無意識的」な自己フィードバック機能の例として体温調節などの恒常性を説明しました。
さらに、人間には成長や学習へむかった意識的な自己フィードバック機能が存在しています。
みなさんもスポーツが上手になりたい、勉強ができるようになりたい、仕事で上の役職になりたい、もっと素敵な人になりたいなど、自分の成長や学習のための目標を設定する事があるのではないでしょうか。
「なりたい自分」を目標に決めることで、目標に向かって努力することは誰しも経験があると思います。
このとき、「意識的」な自己フィードバック機能が作動します。
失敗?それともフィードバック?
失敗すると凹むことってありますよね。
でも、失敗って悪いことなのでしょうか。
失敗をするためには、まずは行動をしなければなりません。
行動せずに「やるかやらないか」考えてやきもきしているよりは、まず行動することは一歩進んだことになります。
失敗を悪いことと考えると、失敗したくない、失敗しないようにすることに意識が向いてしまいます。
発想を転換して、失敗を肯定的な意味で捉えるのはいかがでしょうか。
例えば、失敗をすることで、「学び」というフィードバックを受け取ることができると考えたとしたら?
一つの失敗をすることで、どうすればうまくできるかのヒントが得られたり、その方法は上手くいかないという知見を得られたり、別の方法を試すというきっかけとなったり、必ずなんらかの学びをフィードバックされます。
発明王エジソンの言葉
発明王のエジソンの名言に、失敗について述べたものがいくつかあります。
『失敗すればするほど、我々は成功に近づいている』
『私は失敗など一度たりともしていない。この方法ではうまく行かないということを発見してきたのだ』
また、同じような意味で『失敗は成功のもと』、『失敗は成功の母』などの格言もあります。
失敗の領域に分類されがちな、現状で目標に対して「できていないこと」、「能力が不足していること」は、本来「ダメ出し」されるような事などではなく、その点を改善すれば目標に近づくことができる「成功のもと」なのです。
失敗ではなく、学び、改善点ととらえる
いわゆる「失敗」が「成功のもと」だとしたら、他者がフィードバックする際に「ダメ出し」ではなく、そのフィードバック対象の人の目標を理解して、どうすればその目標に近づくことができるのか、その人の成長を意識したフィードバックの言葉がけをする事ができるのではないでしょうか。
「ダメ出し」ではなく、「こうすればもっと上手になるよ」、「こうすれば理想の自分に近づけるよ」、「ここを改善すれば成長するよ」という目標に意識を向けた肯定的な言葉を使って「改善点」をフィードバックをする事ができたとしたら、相手は成長の意欲が増してくるのではないでしょうか。
相手の目標を理解し、相手の成長を促すことを目的として、肯定的な言葉を使ったフィードバックを「改善点」として伝える。
これが相手にフィードバックを効果的に行うためのマインドセットです。
事例:人間の学習、成長
人間の学習、成長とフィードバックの関係を、サッカー部の中学生の事例で考えていきましょう。
サッカー部に所属する中学生がいたとします。
サッカーが上手になりたいので、日々の練習では基礎的なドリブルやシュート、戦術などを繰り返し学び、身につけていきます。
なかなか上手くいかないプレーは、コーチやチームメートなど他者からフィードバックを受けています。
フィードバックは「ダメ出し」ですか?
このとき、フィードバックをする際の基準となる目標は何でしょうか。
例えばサッカーの上手な選手、プロサッカー選手のドリブルを目標としてフィードバックした場合、現状はこの中学生のドリブルのプレーレベルとの間に当然ですがギャップがあります。
このとき、目標とのギャップとは、サッカー選手と中学生のプレーを比較して「できていないこと」「能力が不足していること」などと考えるとわかりやすいです。
例えば他者からのフィードバックが、「周りをよく見なきゃだめだよ」「もっと姿勢を低くしないとタックルで負けちゃうよ」、「空いている選手にパス出さないからボール盗られるんだよ」など「ダメ出し」になりがちなのは、「できていないこと」「能力が不足していること」をフィードバックで伝える際に、無意識又は意識的にフィードバックする相手を非難するような口調になりがちなことが原因の一つと考えられます。
フィードバックを受けた相手は、自分が非難されたと感じたり、まだできていないことがあるため自分がダメだと思ってしまったり、気分が落ち込む場合があります。
でも、現状で目標に対して「できていないこと」、「能力が不足していること」は「ダメ出し」されるような事なのでしょうか。
そんなことはありませんよね。
フィードバックを「ダメ出し」と考えない、相手の成長を促すために改善点を伝えると理解する、ここが相手が受け取りやすいフィードバックをできるかどうかの大切なポイントとなります。
具体的な目標の設定
サッカーが上手になりたい中学生に、コーチが「どんな選手になりたい?」と目標を聞いたとき、どのように答えるでしょうか。
- Aくん:「一試合で3点取れるようなストライカーになりたい」
- Bくん:「ドリブルで5人抜けるような選手になりたい」
- Cくん:「相手を確実に止めるディフェンスができる選手になりたい」
いろいろな目標がありますね。
ただし、どの目標も大きな枠組みでとらえられますので、この大きな目標を達成するためには、もう少し小さな目標にブレークダウンして、一つ一つ達成していくことを実践すれば、最終的に大きな目標を達成しやすくなります。
具体的に何をすればどうなるのかという、ブレークダウンした目標を設定した方が最終的な目標を達成しやすくなります。
目標が大枠で具体的ではないと、何から達成したら良いかわかりづらいことがあります。
例として、中学生がテレビでプロサッカーの試合を観戦しているとき、プロ選手の華麗なドリブルを見て、「周りがよく見えているな」、「重心が低くて安定しているな」、「フリーの選手を見つけて丁寧なパス出しできているな」などプロ選手の素晴らしいプレーをブレークダウンして分析する事ができます。
分析の結果、自分が上手になるためには「周りをよく見る」、「重心を低くできるようにトレーニングする」、「戦術を学んでフリーの選手に丁寧にパスを出せるようになる」などの具体的な目標を設定すれば、自分が身につけたい能力、やるべき行動が明確になり、具体的でブレークダウンされた「なりたい自分」が設定できるようになります。
本当に手に入れたい目標の設定
このとき、自分が設定する目標は、自分が本当に手に入れたいものに設定することが望ましいです。
周りの大人などが目標設定の手助けをしたとしても、納得して自分の目標として受け入れ頑張れるような目標が設定できれば、自分で考えて目標に向かって学習・成長することができます。
自分が達成できない、達成したくないと思う目標は、意欲が弱いので達成が難しいです。
また、自分が決めたのではなく親やコーチなど他人が設定した目標は、納得できないと頑張る気力が生まれません。
成長を加速するためには、自分自身が納得できる目標を設定する必要があります。
これは自分が学習・成長するための自己フィードバックのプロセスとなります。
自己フィードバックプロセスが起動すれば、人は自然に目標を達成する方法を探し出し、実行します。
たとえ失敗したとしても、自分に対して「ダメ出し」をするのではなく、その失敗点を改善点と考えることで、ますます成長が加速します。
相手が本当に手に入れたい具体的な目標を設定することで、効果的に自己フィードバックプロセスを起動させる。
これは自分の成長のための自己フィードバックプロセスを活用するためのマインドセットです。
フィードバックの達人となるためのマインドセット
フィードバックの達人となるためのマインドセットをまとめましょう。
・相手にフィードバックを効果的に行うためのマインドセット
相手の目標を理解し、相手の成長を促すことを目的として、肯定的な言葉を使ったフィードバックを「改善点」として伝える。
・自己フィードバックプロセスを活用するためのマインドセット
相手が本当に手に入れたい具体的な目標を設定することで、効果的に自己フィードバックプロセスを起動させる。
「意識的」が「無意識的」なることの意味
貴重なレクチャーありがとうございます。
人間は生まれた時からすでに自分に対するフィードバックプロセスを持っているというのは目からうろこでした。
いいポイントをついていますね。
コミュニケーションで使われる言葉のフィードバックをマスターするためには、まず人間がすでに持っている自己フィードバックプロセスを理解するのが近道だと考えています。
そして、人間が生まれつき持つフィードバック機能には、
- 自転車の速度を一定に保つ「意識的」な自己フィードバック機能、
- 体温調節などの恒常性という「無意識的」な自己フィードバック機能、
- さらに成長や学習へむかった「意識的」な自己フィードバック機能
があることなんて考えたこともなかったです。
この辺りも一度真剣にフィードバックについて考えてみないとわかりませんよね。
でも人間など生物の面白いところは、「意識的」な自己フィードバックプロセスを繰り返しているうちに、「無意識的」に近い状態で目標に向かって進むことができるようになることです。
え、「意識的」が「無意識的」になるってどういうことですか?
例えば自転車の例を考えてください。
子供の頃、まだ自転車の運転が上手でないときは、一定の速度で走るためにいろいろ試行錯誤しますよね。
前を走っている友達の自転車に遅れそうになってから「スピード上げなきゃ」と思ったり、前の自転車にぶつかりそうになって「スピード落とさなきゃ」と考えたり、最初は結構頭を使います。
でも、自転車の運転に慣れてくると、そんなことを考えなくても自然に前の自転車についていくことができるようになります。
これが「意識的」が「無意識的」に近くなるの意味です。
成長や学習に関する「意識的」な自己フィードバックも「無意識的」に近づいていきます。
次にサッカーの例ですが、パスが上手になるために「周りをよく見る」という目標を立てたとして、最初はどうやったらいいかわかりませんので、なかなかうまくいきません。
でも、練習をするにつれてやり方がわかってきて、コツをつかんでくると、無意識で「周りを見る」という能力が身についてパスが上手になります。
こうなると自分が手に入れたかった目標である「パスの能力」が身についた状態になります。
「意識的」が「無意識的」になるというのは、人間が生まれながらに自己フィードバックプロセスを持っているために起きる学習機能だと考えています。
「無意識的」に使える能力を身に着けると自分のレベルが一段階上がった感じになるのでいいですよね。
なるほど、たしかに私も自転車に乗るときにいちいち速度の調整とか考えないですね。
自転車乗り始めた子供のころはおっかなびっくりだったんですけど、わたしもいつの間にか「無意識的」な自己フィードバックで能力を身に着けていたんですね!
私は人間のすばらしさにいつも感動しています!
- 自己フィードバックの機能
- 「意識的」が「無意識的」なる学習機能
どちらも人間の素晴らしい能力ですよね。
(急に熱くなってますね、仕事のことになると夢中なのかも)
カピバァラ所長、私も人間の素晴らしさを知ることができて嬉しいです!(私たちはアニマルなんですけどね)
まとめ
ところで、フィードバックの達人となるための二つのマインドセットを紹介したことを覚えていますか。
はい、重要そうだったので研究室の黒板に書いておきました。
1.相手にフィードバックを効果的に行うためのマインドセット
相手の目標を理解し、相手の成長を促すことを目的として、肯定的な言葉を使ったフィードバックを「改善点」として伝える。
2.自己フィードバックプロセスを活用するためのマインドセット
相手が本当に手に入れたい具体的な目標を設定することで、効果的に自己フィードバックプロセスを起動させる。
さすがフィードバック・ラボの期待の新星!
ポイントをよく理解していますね。
この後、この二つのマインドセットに関して、さらに詳細に説明をしていきます。説明は2、1の順番で行います。
がっ、、、
後の説明が楽になるように、次にフィードバックを効果的に行うために有効な目的設定のためのコミュニケーションモデルをいくつか紹介します。
はい、合点承知の助です!